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2011年7月

2011年7月15日 (金)

(34.7.15) 文学入門 井上ひさし 国語元年

                            2011.7.13
  
  みんなちがって、みんないい。
                       ―井上ひさし『國語元年』を読んで

                                  河村 義人

多様な方言が日本語を豊かにする
イナバ「井上ひさしの『國語元年』は面白かったか?」
ホーキ「あんまり面白うなかったな。南部遠野弁、羽州米沢弁、会津弁、名古屋弁、長州弁、鹿児島弁……と、聞き慣れん方言がギョーサン出て来て読みにくかったわいや。京言葉や大阪河内弁なら、まあわかるけど。」
イナバ「確かに南郷家の人々は、てんでバラバラに方言を喋りょーったなあ。でも、それは著者が一番言いたいことに関係しとる思うで。」
ホーキ「一番言いたいことっちゅうのは、何だいな?」
イナバ「金子みすゞの『私と小鳥と鈴と』っちゅう詩、知っとるか?」
ホーキ「知らん。」
イナバ「『鈴と、小鳥と、それから私、/みんなちがって。みんないい。』っちゅうフレーズがある詩だわいや。この戯曲の主人公・南郷清之輔は『全国統一話し言葉』っちゅうもんを作り出そうとしとんなるが、著者が言いたいのはその逆で、方言がギョーサンあった方が日本語が豊かになるっちゅうことだろうで。」

国語改革の行方
ホーキ「なるほどな。だいたい国語改革をしようとしとる主人公自身が長州弁まる出しだもんな。矛盾しとる。国語改革をパロっとるみたいだ。でも、それにしても方言っちゅうのはわかりにくいな。南郷清之輔は『全国の人びとが赤ン坊(アカゴ)のごとく素直にアイウエオを発音すりゃーお国訛りなど自然(じねん)に消滅する』っちゅう結論ないし改革案(新潮社版P.68)を出しとるけど、そげー簡単に行くもんかいなあ。」
イナバ「行きゃーせん、行きゃーせん。そげーなこってうまく行くわけねーがな。でも、明治以降、二葉亭四迷や坪内逍遥などの小説のおかげで民間に『言文一致体』が普及したし、軍国主義の時代を迎えると、軍隊言葉は「○○であります!」みたいな長州弁もどきに統一されたし、で、結果的に日本語は統一される方向に進んだ、思うで。」
ホーキ「そうだなあ。そんでもって、日本語統一を決定的にしたのが、昭和に入ってからのテレビの普及だなあ。あれでもって東京弁をもとにした標準語っちゅうもんが、全国の津々浦々にまで行きわたっただ。」
イナバ「そげーだ、そげーだ。ラジオもあるけど、テレビが決定打だったなあ。教育面でも、学校で標準語(みたいなもん)で授業したっちゅうのも大きい、思うけどなあ。」
ホーキ「だけど、それがはたして良かったかちゅうのは、また別問題だで。」
イナバ「日本人どうし意思疎通しやすくなった半面、画一化した、没個性化につながったっちゅうことだらあ。」

暑さ寒さのせいで人は発音の手を抜く
イナバ「話変わるけど、日本のことを北京語で〝ri  ben″言うだ。」
ホーキ「リー・ベンか。」
イナバ「違う。〝ri  ben″ だ。日本人なら〝ri  ben  ren″。この〝r″が摩擦音で日本人には発音しにくいだ。これ以外にも、北京語には『er(児) 化』という巻き舌音もあって、これも日本人にはちーと発音しにくい。で、この日本が上海語になると『サポン』となる。」
ホーキ「サポン。なんだかサッポロみたいだな。」
イナバ「うん。サポン。日本人なら、サポニン。ほんでもって、福建省の閩南(ミンナン)語だと『ニッポン』。」
ホーキ「ニッポン!?そのまんまじゃねーか!」
イナバ「面白いのは、中国語っちゅうのは南に行けば行くほど発音がゾンザイになるっちゅうこった。面倒臭い発音は、すりゃーせん。」
ホーキ「何でだ?」
イナバ「おおかた暑いけえだらーで(笑)暑いと人は物言うのも億劫になって、簡単に済ませるようになるだらーで。『國語元年』でも清之輔が奥羽人が5個の母音を4個で済ますのは『北国の寒さのせい』だって言っとるけど、暑さ寒さのせいで人の喋り方は横着になる傾向があるみたいだなあ。」

田舎者は方言で物を考えている、か?
ホーキ「田舎者(もん)は方言で物を考えとるっちゅうけど、本当だらあか?」
イナバ「うららー(私たちは)こげーな鳥取弁で物を考えとるんかなあ。いかにも頭が悪そーだが。」
ホーキ「『悪そー』じゃのーて、『悪(わり)い』だらあ。」
イナバ「何言よーるだい。人をダラズにすんな。われ(あなた)も似たようなもんだが。」
ホーキ「さあさ、うらーダラズだ。われもダラズ(笑)方言で物を考えとるかっちゅうことに話を戻すと、住んでいる場所と時間によるよーな気がする。東京暮らしが長い者(もん)は『東京弁』で、大阪暮らしが長い者は『大阪弁』で考えとるじゃねーだろうか。」
イナバ「そげーだ、そげーだ。まあ、鳥取に住んどるうららーは『鳥取弁』で物を考えとるっちゅうこったなあ。」(了)

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