(19.2.23)チンパンジーから電話があった NHKプラネットアース
NHKの国際共同制作番組「プラネットアース」は実にいい番組だ。NHKの技術水準の高さがひしひしと伝わってくる。数年間を掛けて撮影しただけにどの画面も出色のできばえになっている。
プラネットアース第9集「ジャングル 緑の魔境」も素晴らしく、私は感心して見入ってしまった。特にチンパンジーの集団が、自分たちのテリトリーに入ってきた他のチンパンジーの集団を襲う場面は、映画「猿の惑星」もかなわないほど迫力があった。
最後のシーンは取り残された子供のチンパンジーを、襲った側のチンパンジーがみんなで分けて食べているシーンだった。
このときのナレーションは「闘いの後、身の毛のよだつような光景が繰り広げられました」から始まり「縄張りを守り、食べ物を確保するために命がけで戦うことは理解できるのですが、なぜ食べることまでするのでしょうか」となっていた。
実はこのナレーションを私は何気なく聞いていたのだが、友達のチンパンジーが私に電話をかけてきて、「このナレーションはあまりにチンパンジーの猿権を無視した、聞き捨てならない言葉だ」と抗議をしてきた。
彼は次のように言った。
「これでは、チンパンジーだけが共食いをしているように聞こえる。では人類は共食いしたことはないのか。人類の誇る”フリー百科事典、ウィキペディア”を見てみろ」というので、私はすぐにウィキペディアを見て見た。
彼は続けて言った。
「”カニバリズム”は人類の共食いの歴史をあらわす言葉で、明確に人類が共食いしてきた事実が書いてある。
第二次世界大戦中南方戦線に取り残された日本軍は、食料がなくなり死体を食べていた。ニューギニアでは日本の第18軍が”友軍兵の屍肉を食することを罰する”という布告を出さなければならないほど、共食いが行われていたではないか。戦後、人類の中ではまれに正直だった奥崎健三が”ゆきゆきて、神軍”のなかで、そのことを追及していたのを、君は知らないのか」というので、私も確かにそのドキュメンタリーを見たと答えた。
ほかの例を出そうと彼は続けて言った。
「1972年にアンデス山脈に飛行機が不時着し、45名の乗員乗客のうち17名が死亡したが、残った人たちは死んだ人の屍肉を食べることによって生き延びた。これは後に映画化されて多くの人が知ることになり、ローマ法王は”この共食いはやむおえないこと”として特赦を与えたではないか。
ローマ法王といえば、人類の中では、高崎山のボスざると同じくらい著名人のはずだ」
私は、ローマ法王のほうが高崎山のボスざるより著名ではないかと思ったが、黙って聞き続けた。
「飢饉のたびに人類が共食いしてきたことは、研究者の間では公知の事実だ。考古学では、人骨が出てきて、その大腿部が割られ、中の髄質が食べられている場合は、共食いの証拠とされているのではないか」
「だから」といつもは物静かな彼が絶叫した。
「このナレーションは次のように変えられなければならない。”人類と同じようにチンパンジーにも共食いの風習がある。人類の場合は、戦争や飢饉の場合に頻繁に発生するが、平和を愛するチンパンジーは、自分のテリトリーを守る闘いの場合だけまれに発生する。チンパンジーにとって、この人類の行いは「身の毛のよだつ」ような行為だが、毛のない人類は「身の毛をよだたせる」こともできない”」
少し、チンパンジーに偏り過ぎた意見に聞こえたが、彼の怒りも理解できたので、私は「NHKに伝えておくから」と言って彼をなだめなければならなかった。
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