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(19.4.13) 友よ風に向かって走れ(その5)

 このシナリオシナリオ1からの続きです。恐縮ですが、シナリオ1・2・3・4を読んでいない人は1・2・3・4から読み始めてください。

○ K物産とのマージャンの帰り(12月中旬,夜)
  タクシーのなか。課長と山崎。

語り「結局K物産とマージャンをした。課長は一人勝ちであったため、いたって機嫌がいい。だいぶ酒も入っている」

課長「いや、いや今日はじつにたのしかった。しかし、K物産の部長も、課長もマージャンがへたくそだなあ。部長、5回だよ。5回も、小生に満貫ふりこんでさぁ。あのときの顔、見物だったね。まあ小生の腕がいいから・・・・・」
運転手「お客さん、儲けたんでしょ」
課長「まあね、今月のこずかい銭ぐらいよ。おい、山崎、なぜだまっている。えっ今日ぐらい、陽気にやれよ。勝てなかったのでおかんむりか。腕よ、腕。ところで、山崎、部長のいってた融資、前向きに考えてやれ」
山崎「あそこは、注意したほうがいいとおもいますが」
課長「また、それだ。いや、君は頑固だね。頑固のうえに何かつきそうだね。すっかり、酔いがさめたじゃないか。もうすこし、前向きに考えられないのかね」
  怒って横をむく水谷課長

○ 水谷課長の家(続き、夜)

  タクシ-を下りる水谷。山崎は途中で下りていない。
            
課長「あの馬鹿、一体、いつまで俺の足を引っ張ればきがすむんだ。くそ-、山崎のおかげでいつも2課に負ける。神鳥なんかに先をこされてたまるか(映像をかさねて: 神鳥課長の高笑い)」
  玄関を手荒に開ける。むかえる妻、佳恵(42)
佳恵「もう遅いんだから、大声を出して帰るのは止めて下さい」
  玄関に大きな荷物が宅配されている。荷物に気付く水谷
課長「これ、何?何処から送ってきたんだ?」
佳恵「K物産からの御歳暮だっていうんだけど、これゴルフセットですよ」
  荷物をほどく水谷課長
課長「ほう、これはイギリス製の超高級品だわ。実に小生に相応しい」
佳恵「(不安げに)こんな高価なもの、御歳暮でもらっていいんですか?」
課長「なにが、いいに決まってるだろう。これは小生に対する期待ですよ。いや、いや実に可愛い企業だ!」

○ 神宮外苑コ-ス(数日後、夜9時)

  トレ-ニング終了前のミ-テング。不動の姿勢の山崎、リラックスした姿勢の久子。 
               
久子「来週から、土日は筑波大学でトレ-ニングすることにする」
山崎「はは、なんで筑波までいくの?」
久子「筑波には特別トレ-ニング室があって風圧を自由にコントロ-ルできる装置があるんだ。君をそこで改良することにする。教授に頼んで土日に機械を借りることにしたんだ」
山崎「タ-ミネイタ-でもつくるのかい?」
久子「君を、風に強い選手に改良するんだ。日本の選手は、悪条件に極端に弱いなぜか分かる」
山崎「精神力のせいだろ?」
久子「いや、なれさ。人間、一度経験しておけば大抵のことは耐えられる。はじめてだと、恐怖感で崩れるんだ。ロスのオリンピックで優勝確実と言われた日本選手が大敗したのは、真夏の太陽に慣れてなかったせ
 いさ」
山崎「僕は暑さにも、風にも強いよ」
久子「知ってる。君のたった一つの取りえは野性みだよ。筑波で25メ-トルの風圧を経験させてやるよ。そうすれば君は北風のランナ-になれる」
山崎「はは、何か分からないけどおもしろそうだね」

語り「そして僕たちはこの奇妙なトレ-ニングを開始した」

○ 筑波大学体育学研究所(昼)

 特別トレ-ニング室。風圧実験装置を兼ねた密閉された大型の筒状の装置。内部にランニング用のベルトコンベア-。風速が20メ-トルに設定されている。中で山崎が山崎がランニングスタイルで準備運動をしている。外から時間測定をする久子。

久子「風速20メ-トル、ベルトコンベア-の時速20キロにセット。5分ごとのインタ-バル開始」
  機械のスィッチを入れる久子。ベルトコンベア-のスピ-ドがます。風速20メ-トルの強風が前から吹き出す。懸命に走りだす山崎。滴り落ちる汗。風にたなびく黒髪。一時間経過。ふらふらになっている山崎。
            
久子「30分休んで、次は風速を25メ-トルにあげる」
山崎「それじゃ、台風のなかでマラソンするようなもんだよ」
  研究室に研究室の助手がはいってきて、山崎のトレ-ニングをびっくりして見ている。
助手「これ動物実験用の装置ですよ。犬や馬を使って実験するんです。人間を入れるなんて無茶ですよ」
久子「知ってる。でも中の人にそのことを教えちゃ駄目だよ。これは人間のなかにある野獣性を最大限に引き出す実験をしてるんだから」
  走る山崎(映像をダブらして:走るド-ベルマン)

○ 青梅マラソン(冬、2月)

語り
「ついに青梅マラソンの日がきた」
  快晴、無風、気温5度、マラソン日和。準備体操をしている選手。青梅マラソンの横断幕。山崎の腕と足をマッサージしている久子。

久子「5キロまでにトップグループにつくんだ。いいね。君ならできる」
山崎「うん、やるよ(力強く)」
久子「アコネンを抜くんだ。抜くと言え」
山崎「抜く、抜く、抜く(大声で)」
久子「よし、いいぞ、いけ、弱気になるなよ」
  山崎の胸を強く叩く久子。

語り「僕は一般選手のため、スタート地点はかなり後方だったけど、じょじょに追い上げ、10キロ地点では第二グループにつけた。第一グループは、アフリカの招待選手アコネンと日本の招待選手、伊藤が競り合っていた」

  アコネンと伊藤の競り合い。第二グループの山崎。沿道の声援。給水所で水を取選手。

語り「アコネンと伊藤はさすがはやかった。なかなかおいつけない。しかし、信じられないことが起こったのは25キロの給水所でのことだ」
  給水所でアコネンと伊藤が接触して転倒。100メートル差で追っていた第2グループに追いつかれる。

テレビアナ「思わぬところで転倒があったため、現在、先頭はアコネン、伊藤と第二グル-プを形成していた三名の計五名になっております。選手を紹介いたします。ゼッケン番号45は日産自動車の入江、96番
 はNECのB、そして10003番は・・・・・・、しばらくお待ちください。ただ
 いま選手の確認をしております(ようやく記録係からメモが渡される)10003番はA銀行の山崎です。ところでアコネンと伊藤ですが怪我がなければいいのですが」

解説者「まあ、二人とも世界のトップランナ-ですから、また徐々に引き離すでしょう。応援の旗が強風にたなびき始める。一斉に前傾姿勢を取り始めるランナ-
解説者「風が大分強くなってきましたね。完全に向かい風になっていますね。選手はかなり辛いとおもいますよ」
テレビアナ「はい、今情報がはいりました。風速は現在15メ-トルの向かい風ですね。スタ-ト時点では無風でしたから、気象条件は急激に悪化してきてます」
解説者「ほう、そうですか。この風では相当スピ-ドが落ちるし、目いっぱいの選手はラストスパ-トがきかないでしょ」
  アコネンが二十八キロ地点でスパ-トする。伊藤が遅れだし、山崎だけがアコネンを追走
テレビアナ「アコネンがスパ-トしました。ついていけたのはA銀行の山崎だけです。伊藤は遅れました」
  アコネンと山崎のデットヒ-ト

○ A銀行上原取締役の家(同時刻)

  上原取締役(55才)が青梅マラソンのテレビ中継をみている。
テレビアナ「A銀行の山崎、よく頑張っています。全くの無名選手ですが、世界のトップランナ-、アコネンと実に堂々と競り合っています」
  上原取締役がおどろいてテレビを覗き込む。2人のデットヒートがつづいている。山崎のランニングにはA銀行の鮮やかなマーク。歯をくいしばっている山崎。
取締役「母さん、大変だ。うちの選手がはしっている。新宿支店の山崎ってやつだ。 すごい、優勝するかもしれないぞ」

○ 青梅マラソン(続き)

 レ-スは最後の1キロになっている。
テレビアナ「レースは大変なことになってまいりました。優勝は、アフリカの星アコネンか、無名の新人、A銀行の山崎か」
解説者「これは全く予想外ですね。アコネンはだいぶ苦しそうですね。よほど風が強いのでしょ。いっぽう山崎の足取りは快調ですね。風を楽しんでるみたいなとこがありますね」               
  久子が自転車に乗って沿道を伴走しながら声をかける。           
久子「最後だ。スパ-トしろ。風にむかって走れ、死ぬまで走れ、走れ(叫ぶ)」
  山崎が最後の400メ-トルでスパ-トする。アコネンも追おうとするがとどかない。周りは鈴なりの応援
テレビアナ「山崎スタ-ト、アコネンとの差は5メ-トル、10メ-トルと開いていきます」
解説者「決まりましたね。いや-、恐ろしい選手がいたもんですね。しんじられませんね」
  ゴ-ルに飛び込む山崎。気を失いそうになり、足がもつれている。目は虚ろ。久子がタトルを持って抱き抱える。
久子「よくやった。1時間30分5秒、君、天才だよ」
  山崎は朦朧としながら頷く。
山崎「へへ、風が強くなったら急に身体が楽になったんだ。ヤッタゼ」

上原取締役もテレビをみながら興奮する
取締役「うちの選手が優勝したぞ、えっ、うちの選手だぞ。いやいや、大したヤツだ」
  勝利者インタビュー。山崎の嬉しそうな顔のUPがテレビに写っている。胸にA銀行のマーク。
テレビアナ「おめでとうございます。勝因はなんですか」
山崎「はは、コ-チと、風かな」                           

                         (明日に続く)

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