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(19.4.12)友よ風に向かって走れ(その4)

 このシナリオシナリオ1からの続きです。恐縮ですが、シナリオ1・2・3を読んでいない人は1・2・3から読み始めてください。

○ 神宮外苑(10月、午後6時)

語り
「ともかく僕は斉藤君の実力を認めた。あのひとは天才的なコーチだ」

  落ち葉が舞っている。斉藤久子が山崎次郎を自転車で追っている。

久子「なんだ、その手のふりは。上体が揺れてる。もっと腰を上げろ。ラップがおちだしたぞ。手をぬくな、分かったか」
山崎「はい(ゼイゼイいいながらこたえる)

○ 神宮外苑(午後9時)

  練習が終わったあとの反省ミーティング。山崎次郎は不動の姿勢。斉藤久子はストップウォッチと記録表をもってリラックスした姿勢

久子「今日はとってもよかった。実力は確実についてきている。5キロ、15分台前半になった。次の目標は、青梅マラソンに絞る。あと5か月。来週は合宿をする。1週間休みをとれ」
山崎「えっ!1週間もですか(当惑しながら )」
久子「そうだ1週間だ。ばっちり取れ(威厳にみちて)」
山崎「夏休みじゃないし、課長説得できないよ」
久子「あまえんじゃないよ。まともで青梅マラソンに勝てる。仕事は二流でいっぱしの銀行員ずらをするんじゃない」

語り「このひとは本当に強引なのだ」

○ 一週間後、事務室(昼)

語り「休みのことを課長にきりだせず1週間たった。明日が合宿の日だ。僕はとうとう決心した」

山崎「課長、ご相談があります」
課長「君から相談ですか。ぜひ前向きな相談にしてほしいですね」
山崎「申し訳ありませんが、明日から1週間休暇をとらしていただきたいのですが」
課長「ほう、1週間ね(疑い深そうに)。家族にご不幸でも?」
山崎「あっ、いえ、そうではないんですが。私用です」
課長「ほう・・・・年休の範囲内ですから、ダメだとはいいませんが、君は課の最年長者でしょ。少しは、自覚を持ってほしいですね。こんなことは言いたくありませんが、田中君のほうがはるかに良く仕事しますよ。取締役が来られたときも、会議に遅れるし、取引先とのコンペには出ない。そして1週間の年休ね・・・どうしても、休みをとるのですか」

山崎「あっ、はい(当惑しながら)」
課長「ほう(軽蔑したように)・・・・ ところで、斉藤君からも、休暇願いがでていますが、まさか一緒ではないでしょうね」
山崎「あっ、いえ、違います。斉藤君とは全く関係ありません(顔がほてる)」
課長「いいですか、これだけはいっておきます。君は一流銀行の職員です。君の恥は私の恥です。くれぐれも間違いはおこさないように」
山崎「あっ、はい」

語り「もうすこしで心臓が飛び出るところだった」

○ 特急あずさの車内(朝)

  山崎と久子が隣あって座っている。
語り「こうして合宿に出発した」

山崎「コーチ、合宿を白馬岳でするというのは冗談でしょ。白馬は3000メ-トルの山ですよ」
久子「いえ間違いなく白馬岳よ」
山崎「登山でもさせるんですか」
久子「君、高地トレーニング知ってるでしょなぜエチオピアやケニアの選手が強いの。いつも2500メートルの高地でトレーニングしてるからでしょ。だから、こっちは3000メートルでやるの。空気は薄いし、ばっちり鍛えられるよ」
山崎「でも、走る所がないですよ」
久子「君、登山したことないの?白馬の周辺は平らで、登山道はあの農道みたいによく整備されてるの(農道を指さす)、公園を走るようなもん」
山崎「はは、農道ね。じゃ、馬車馬のように走るか!ところでコ-チ、コ-チは前、喫茶店で、K物産との取引は要注意だといってたけどどうして?」         
久子「ああ、あのこと。私の住んでるとこ、K物産の近くなの。あそこの若社長知ってるでしょ」
山崎「なかなかの美男子でやりてだけれど」
久子「いい噂、聞かないの。キャバレ-で一日、何百万使ったとか、女が何人もいるとか、不動産を切り売りしてるとか。こういう噂、注意すべきだと思うんだ」
山崎「(思案げに)ふ-ん、そうなのか」

○ 白馬岳(1日目、快晴)

  白馬3山。わきあがる雲。ゆるやかな登山道。走る山崎。びっくりする登山者。高いピークで双眼鏡で山崎をみている久子。

語り「こうして僕たちのトレーニングが始まった。空気が薄いと実に苦しい。心臓は破裂しそうだし、胃は吐きそうだ」
  岩かげで嘔吐している山崎。ふたたび走り出す山崎。双眼鏡でみている久子。流れる雲。

○ 白馬岳(4日目、昼、風雨)

  雨具を着て走る山崎。ピークからじっと見守る久子。傘をさし雨具を着ているが雨がよこから頬をたたく。びしょびしょの髪。ひたたりおちるしずく

語り「4日目、体調は完全になれた。ちっとも苦しくない。雨も気にならない。スピードも十分だ」

  大学ワンゲル部のパーティーとすれちがう。驚いて口も聞けずに見ているパーティー。おちる山崎の汗。震えながら見ている久子。

○ 山荘(4日目、夜)

  山荘の一室、久子が布団をひいてねている。身体が小刻みに震えている。横で山崎が柔軟体操をしている。

山崎「今日は実におどろいた。走ってたら急に雷鳥とびだしてね。もうすこしで踏みつぶすとこだった。雨の日は雷鳥がでるって本当だね」
  答えない久子。異変にきずく山崎。
山崎「どうした。身体の調子わるいの」
  震えている久子。額に手をやる山崎
山崎「熱い、ねつがある。山荘の人、呼んでこようか」
久子「いい、あのポシェットに解熱剤ある。とって」
  解熱剤と水を手渡す山崎。飲む久子。おもわず咳き込む。背中をさする山崎。髪が目の前で乱れる。振り向く久子。目があう。重苦しい沈黙。久子のくちびるに顔をちかずける山崎。強く手で山崎の唇をさえぎる久子。

久子「君、あまいよ。風邪ひきのおとめの唇を奪うと、風邪ひくよ。ランナーの第一条件は風邪ひかないことじゃん。私がこうしてがんばってるんじゃないか。君も色恋ぬきでがんばれよ」
山崎「(動揺しながら)あっ、いや、ごめん」
久子「私、君にかけてるんだよ。君は今の時代では、落ちこぼれさ。私も女だから認めてもらえないんだ。でも未来はそうじゃないよ。なんとかいっしょに・・・・・こうして未来をさがしてるんだろ。だからそれまで・・・・・色恋なしさ」
山崎「・・・・・・」
久子「今日は他の部屋でねて。風邪うつるから。それから明日は、私、動けないから自主トレだよ」

語り「僕はこの時ほど感動したことはなかった。半端じゃないんだ。だから・・・」

○ 山荘の外(同日、真夜中)

  星空。山荘の明かり。その前でなわとびをしている山崎

山崎「一万一、一万二、一万三・・・」
  流れ星。満月。風の音。
山崎「二万一、二万二、二万三・・・」

○ 5日目(昼、曇り)

  一人で走っている山崎。ながれる汗

語り「こうして僕たちの合宿はおわった。この日から、僕はたしかに変わった。なぜか彼女のために走ろう、そう思ったんだ」

○ 会議室(12月1日 朝の打合せ)


  会議室に水谷課長、山崎、久子、同僚の田中、大川、山本が集まっている。

課長「今日から12月! 諸君も充分わかっていることとはおもうが、預金、貸出、投資信託特別運動月間に突入した。目標必達にむけて全力をつくしてもらいたい。9月の運動月間では、残念ながら隣の第二課に苦杯したが(映像をだぶらして:9月運動月間の表彰式。支店長から金一封をもらい意気揚々としている神鳥課長。横でにがにがしげに手をたたいている水谷課長)今回は私も全力をつくし、目標必達に邁進する
 ことを約束する」
田中「A社、B社、C社にすでに11月からアプローチしてきましたが、非常にいい感触を得ています。とくにA社については、社長の自宅に日参したところ、昨日是非取引したいと言われました。ばっちりです」
大川「田中先輩は相変わらず好ダッシュですね」
課長「いゃー、御苦労さん。御苦労さん、 昨日といえば、日曜日じゃない。いゃ、いゃ、本当に御苦労。私は実に鼻がたかい(といいながら、山崎の顔を見る)」
課長「ところで、山崎君、君もすでに動いているんだろうね。まさか、目標未達成なんてことは、絶対にないはずですね。なにしろ、君は、田中君と違って余裕しゃくしゃく、日曜はもっぱら、マラソンですからね」
山崎「仕事と趣味は別です。ちゃんと仕事もしています」

課長「ほう、そうですか。しかし君は9月の特別運動のときも、大丈夫と言ったが結果は隣の第2課に苦杯したではないですか。特に君のところには、K物産のような優良取引先があるのだから、預金も貸出もばっちりじゃない。えぇ」
山崎「(ちらと久子の顔を見ながら)課長、お言葉ですが、K物産とあまりつきあわないほうがいいとおもいます。やたらとゴルフをさそったり、今月はマージャンをさそってきてますし・・・・。K物産の資金繰りはどう分析しても、余裕はないはずです。おかしいです」
課長「ほほ-、時には君も分析的な頭脳を持っているようですね。しかし、はは(馬鹿にしたように笑う)、君は若いねえー、全く会社を見る目というものがないね。いいですか、K物産は私に惚れてるんです。だから、私が一言いえば、さっと預金してくれる。そんなことも(軽蔑した調子)」
山崎「(ぼそぼそと)いえ、その、社長の噂もよくありません」
課長「誰がそんなこといってるんですか。えぇ-!ふん、きみはそんなことをいってすぐ仕事をさぼろうとする。たまには田中君をみならったらどうかね」

語り「でも僕はやはりおかしいと思った。どう調べても、資金繰りはパンク寸前だった」

                              (明日に続く)

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