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(19.4.11)友よ風に向かって走れ(その3)

このシナリオシナリオ1からの続きです。恐縮ですが、シナリオ1・2を読んでいない人は1・2から読み始めてください。

○ 山崎次郎の住んでいる独身者寮(夜)

  6畳一間の空間。本棚には金融関係の本とスポーツの本がならんでいる。机の上には、「ランナーズ」と「陸上競技」の雑誌。壁には等身大の鏡。その前で筋肉トレーニングをしている山崎。5本のエックスパンダーを思い切ってひろげている。相当頭にきている。

山崎「クソッタレ、斉藤のヤツ。ひとを何だとおもっているんだ。ブットバシテヤル。我慢ならん、あれが女の使う言葉か」
 力をいれすぎ、エックスパンダーの1本がきれる。無視してさらに力をいれる山崎。残りの4本がけたたましい音を出してすべて切れる。エックスパンダーを床にたたきつける山崎。

山崎「(怒鳴る)なんでエックスパンダーまで人を馬鹿にするんだ」
  隣から「ウルサイゾ」という声。

○ 神宮外苑コース(1週間目)

語り「それでもぼくは1週間我慢したんだ」

  アジる久子。山崎は急に走るのを止め、自転車に乗っている久子にちかずく。肩が怒り肩になっている。
山崎「もういい加減にしてください。あなたはコーチでも何でもないんです。余計なおせっかいです(顔は怒りにみちている)」
久子「いいえ、私は優秀なコーチよ。大学でもそういわれたの(平然と)」
山崎「ただうるさいだけです。みんな笑ってます。やめてください」
久子「まあ、あなた、怒りで頭がいっぱいで何も気ずいてないのね」
山崎「何が」
久子「あなた、この一週間ですごーく速くなってるのよ。100メートルのラップが19秒。5000メートル、16分のペース、私と同じレベルになったのよ」

  茫然と久子を見つめる山崎。
久子「ほら、知らない。時計も見てないでしょ。人間怒るとバカ力がでるの。だから私は優秀なコーチだといったでしょ」

語り「知らなかった・・・・・」

○ 国立競技場の前の路(夜、9時)

  トレ  ニングの帰り路。自転車を手で引っ張って歩く久子。並んで歩いている山崎。

山崎「(言葉がなれなれしくなっている)前からきこうと思ってたんだけど、斉藤さんはなぜこの銀行にはいったの?」
久子「なぜって?」
山崎「筑波大学の体育学部だったら、教師になればよかったのに」
久子「アッハ  、そのこと。私、本当は体育の教師になる予定だったんだけど、今、教師の口ないの。だから、腰掛けのつもりで親父のコネ使ってこの銀行にいれてもらったって訳」
山崎「でも、大卒の女性を正規に採用したのは今年からだから、斉藤さんはその前に、はいったんじゃない?」
久子「そうなの、実に傑作なんだ。面接したら、短大卒の資格なら採用しますだって。つい腰掛けのつもりなんで、はい、いいです、なんて言ったのが失敗なのよね。おかげで君のアシスタントだもんね」
山崎「(困った表情で)はあ、その・・・」
久子「いいよ、君が困ることないよ。ただ私は教師としての才能があるから血が騒ぐんだ。しかし、君がこんなプライベ  トな質問したの始めてだよ」
山崎「(困惑して)いや、その・・・」

語り「こうして二人のトレ  ニングが始まった」

○ 銀行事務室(9月、朝の打合せ)

  会議室。窓から新宿御苑の銀杏がキラキラ光って見える。課長、山崎次郎、同僚の田中明、大川誠、斉藤久子、山本洋子の課メンバーが神妙な態度で課長の指示を聞いている

課長「K物産とのゴルフコンペ、1週間早まって今週の日曜日に、変わったよ。なにしろ大切な取引先だから、きばってやってや(浮かれた調子で)」
山崎「エエ!再来週じゃないんですか」
課長「K物産の都合で、来週になりました(冷たい口調で)」
山崎「それはないですよ。来週は困ります」
課長「ほうー、それはなぜですか(唖然としながら)」
山崎「マラソンの試合があります。K物産とのコンペは再来週と聞いていました。だから10キロの大会に2か月前から申し込んであります」
課長「お客の都合なんだから、仕方ないでしょう。君も銀行員なんだから、そのぐらいの融通をつけるのが常識でしょう(憤然と)」
山崎「しかし・・(久子の顔を見る。平然とした表情で横を向いてる久子)やはり駄目す。一週間違うと調整がくるいます」
課長「(冷静さを完全に失う)な、何をいうか。お前は自分をダ ービ ーにでる馬と勘違いしているんじゃないか。K物産はお前の担当だ。出なさい。命令です」
山崎「(ふたたび久子を見る。平然と窓外を見ている久子)その、やはり駄目です」
課長「(机をたたいて立ち上がる)出ろ。業務命令だ」

  険悪な雰囲気にたまりかねて、同僚の田中が助け船をだす。
田中「私、私がでましょう。どうせ、日曜日は暇ですから」
課長「・・・・(田中の言葉を無視して山崎を睨みつけている)」
田中「僕はゴルフが好きですから」

  かろうじて自分を取り戻す水谷課長
課長「じゃ、田中君がそこまで言うなら・・ まあ、田中君に頼みましょう。しかし、先輩のつけを後輩が払うんじゃたまったもんじゃないね(皮肉っぽく)」
山崎「(小声で)田中君、すまない」
田中「いいですよ、暇ですから」
課長「(聞きとがめて)ふん、立てていい先輩とそうでない先輩がいるのです」
山崎「はは、どうも(頭をかきながら)」
課長「(軽蔑しきった目で山崎を睨みながら)えぇ  と、それから最後になりましたが、今日、1時に上原取締役が9月の特別運動の支援をかねて視察にこられます。取締役をかこんでの会議をしますので全員出席するように。以上」

○ A銀行事務室(12時まえ)

  久子と山崎がいる。他の課員はいない。山崎は昼のジョギングにでようとして久子に話かける。

山崎「昼のトレーニングにいってくる」
久子「手をぬくなよ(小声で)」
山崎「今日のことだけど、やはり、ゴルフには出るべきだったかな。試合はいくらでもあるんだし」
久子「君、さっき私の顔、チラチラみてたけど絶対にひよっちゃ駄目だよ。君は一見頑固にみえるけど、気のいいところがあるんだ。それが一流になれない原因だよ」
山崎「うん、まあ(やや不満げに)」
久子「それと、今日は取締役の視察があるから、おくれちゃ駄目だよ」
山崎「OK,OK,12時半には戻ってくる」

○ 事務所の裏口

  トレ  ニングウェアでいきおいよく飛びだす山崎。黒塗の自動車が、急に裏口に入ってくる。自動車と接触する山崎。運転手があわてて飛び出してくる。

運転手「君、急に飛び出すなんてあぶないじゃないか。えっ、大丈夫?怪我ない?」
山崎「はは、大丈夫、なんとも無いっす」
  かけだす山崎。茫然と見ている運転手と車内の上原取締役。

○ 神宮外苑コ  ス(昼休み)

  山崎が軽い感じで走っている。時々時計を確認。後ろからえんじのユニホ-ムを着た早稲田の選手が近づいてくる。山崎と並び、さらに追い越そうとする。早稲田の学生を見る山崎。いつも競争になる学生であることが分かる。急にスピ-ドを上げる山崎。まけじとスピ-ドをます早稲田の学生。互いに歯をくいしばり懸命の力走。並走して5周するが互いに追い抜くことができない。荒い呼吸。ついに早稲田の学生が「アァ-」という悲鳴をあげ、急にスピ-ドを落とす。思わず笑みがこぼれる山崎。時計を見る。

山崎「しまった。昼休み過ぎちゃった」
  夢中で事務所に戻る山崎。

○ 会議室(1時15分)

  上原取締役が中央奥、その横に関支店長(43才)と水谷課長、神鳥課長が神妙な顔をして座っている。他に20名の職員が左右に座っている。

支店長「全員そろったかね、山崎君はまだのようだが」
課長「(当惑しながら)あっ、いえ、山崎はちょうど取引先周りをしておりますので、先に始めてください」
支店長「では、取締役、お願いします」
  立ち上がりスピ-チを始める取締役
取締役「うむ、では、えぇ-、今日は大変忙しい中、諸君に集まってもらったのは、9月の特別運動にさきだって・・・」

  会議室にあわてて飛び込んでくる山崎。顔がほてり、汗がひたたり落ちている。荒い息。シャツは汗でビショビショ。
課長「(当惑しながら)山崎君、早くここに座りなさい」
  朦朧としながら課長の横にすわる山崎

取締役「君、さっき自動車にぶつかった人じゃないか。身体、大丈夫?」
山崎「はは、勿論、大丈夫です」
取締役「さっきは、ランニングスタイルだったけど、いままで走っていたの?」
  水谷課長が咳ばらいをする。
山崎「すいません。すぐに帰ってくるつもりが、早稲田の学生と競争になり、つい夢中になって」
  にがりきった顔の水谷課長、にやにやしている神鳥課長
取締役「実は君は取引先に行っていることになっているんだけどね」

  笑い出す神鳥課長。憮然とする水谷課長。にがりきった支店長。怪訝な顔の山崎。

○ 10キロミニマラソン(昼)

  皇居の外苑を二周するミニマラソン。参加人員は300名ほど。快調に走る山崎。ストップウオッチを片手に山崎をみている久子。終始トップグル-プにいる。久子の余裕の笑み。警視庁前で山崎がスタ-トし、一気に他の選手を引き離す。トップでゴ-ルイン。久子とVサインをかわす。

○ A銀行事務室(翌週の月曜日の朝)

語り「僕は前日の10キロで31分をきったので、ほとんど、頂天になってしまった。

山崎「いや、今でも信じられないんだ。34分を切る自信はあったけど・・・・ところが31分を切ったんだもんなー。もうすこしで第一線級のランナーだよ・・・・・、もうー、嬉しくて、嬉しくて(感動的に)
久子「君、よくやったよ。すこしフォーム改造すればもっと速くなるよ。でも事務室であまりはしゃぐのは、賛成しないな」
  そこに水谷課長がやってきて思い切り皮肉をいう。

課長「山崎君、君には全く興味はないでしょうが、昨日K物産とのコンペがありましてね。田中君は実によくやってくれました。おかげでK物産の常務、大喜び。なんと5千万の投資信託を取り組んでくれることになりました。この実績は当然、田中君のものです。融資も5億の申込み。まあ、君には荷重でしょうから、私が直接稟議をかきましょうか。あっ、そう、そう君は マラソンのことしか頭にないんでしたね」
山崎「・・・・・・」
  背を向けて去る水谷課長。久子の顔を見る山崎
久子「ねー、言ったでしょ(いたずらっぽく )」

                              (明日に続く)

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